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東京地方裁判所 昭和51年(刑わ)5271号 判決

主文

被告人を懲役二年に処する。

未決勾留日数中二五〇日を右刑に算入する。

この裁判の確定した日から三年間右刑の執行を猶予する。

訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、竹内毅が爆発物を製造した爆発物取締罰則違反の犯人で、指名手配を受け捜査中の者であることを知りながら、昭和四九年八月一八日、右竹内を伴って東京都世田谷区太子堂五丁目一七番四号不動産業青山祐孝方に赴き、同区太子堂五丁目二一番一〇号のアパート冨士谷荘の所有者加藤暢男から同アパートの賃貸の仲介を依頼されている右青山に対し、右竹内を大賀達雄、自己を大賀達雄の妻大賀由紀子とそれぞれ偽ったうえ、同アパートの賃貸借契約の交渉を行い、同月二二日右青山方で、同人を介し右加藤との間に、大賀達雄が同月から同五一年八月一九日まで右冨士谷荘二階一室を家賃月三万一千円で借り受ける旨の賃貸借契約を締結し、更に同五一年七月一一日右冨士谷荘で右青山を介し右加藤との間に右契約を同五三年八月一九日まで更新し、同四九年八月分の家賃等は現金で、同年九月分から同五一年一〇月分までは毎月の家賃等を右加藤の預金口座に銀行振込みの方法でそれぞれ右竹内のために支払うなどして、同四九年八月二二日から同五一年一〇月一四日までの間、右竹内を前記冨士谷荘に居住させてかくまい、もって、爆発物取締罰則第三条の犯人を蔵匿したものである。

(証拠の標目)《省略》

(法令の適用)

判示所為

爆発物取締罰則九条、三条

刑種選択

懲役刑を選択

未決勾留日数の刑算入

刑法二一条

刑の執行猶予

同法二五条一項

訴訟費用

刑事訴訟法一八一条一項本文

(弁護士人の主張に対する判断)

弁護人は、捜査官憲は、昭和五一年四月二八日ころ、本件被蔵匿者竹内毅の所在をつきとめ、同人を逮捕できるにもかかわらずこれを放置していたものであり、この間の被告人の行為は捜査を妨害するに至らなかったものであるから違法性はないと主張する。しかし犯人蔵匿罪は捜査を現実に妨害するという結果の発生は必要でなく、妨害の可能性があればよいのであるからたとい捜査官憲が被蔵匿者の所在を知っていたとしても蔵匿行為が存在すれば本罪が成立し、違法性もまた存在するといわなければならない。よって、弁護人の主張は理由がなく、採用できない。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 坂井宰)

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